フランスでは揚げ菓子は主にカーニヴァルから復活祭が始まるまでの間に食べられていました。
カーニヴァルが終わると40日間の節食期である四旬節に入ります。この間は、肉を食べてはいけないというきまりがありました。肉の代わりに人々は野菜や魚などに衣をつけて揚げ、カロリーのあるものを食べていました。この宗教の行事とあいまって揚げ菓子がフランス全体で食べられるようになりました。
一般的に揚げ物のことはフリチュール Friture といいますが、生地を揚げて甘くして食べるお菓子のことをベニエ Beignet といいます。同じ揚げ菓子でもフランスの地方によって呼び名が変わってきます。いわゆる方言として呼んでいたものもあります。
ベニエ Beignet
小麦粉に卵や牛乳などをくわえて生地だけを揚げたふんわりとした食感のお菓子のこと。お菓子としては、丸い形で中にチョコレートやジャムなどを詰めた揚げ菓子のことをいいます。
日本でよく見るふわふわなドーナツのような見た目ですが、よりずっしりとした食感があります。ほかにも、揚げ衣をつけて肉や野菜などを揚げた料理やフルーツを揚げたものもベニエといいます。
Beignet ベニエとは、中世フランス語の「こぶ」と意味する Buignet から変化した言葉です。
ビューニュ Bugne
南東フランスでみられる揚げ菓子のこと。こんにゃく結びのようにねじったもの、薄く伸ばして長方形に切ったものの2種類のビューニュがあります。小麦粉、卵、牛乳、砂糖のほかオレンジやオレンジの皮をくわえることもありますが、地方によってはくわえないこともあります。
昔は、マルディグラ Mardi gras というカーニヴァルの最終日に食べるのが習慣となっていました。現在ではその習慣はないものの、2〜3月の同じ時期に食べる習慣が残っています。中世時代には揚げ物屋が街頭で売歩いていました。
ビューニュは15世紀から18世紀初期に栄えたサヴォワ公国 Duché de Savoie のスペシャリテ料理でした。そのため、フランス南東のリヨンを中心に広まっていったと考えられます。ローヌ・アルプ地方やオヴェルニュ地方を中心にディジョンからアルルまで広がっています。
ベニエと同じく「こぶ」を意味する Buignet からきた言葉です。
メルヴェイユ Merveille
フランスの西から南東にかけて主に見られる揚げ菓子のひとつ。小麦粉、卵、牛乳、砂糖またはハチミツのほかオレンジ水やアルマニャックやコニャックといった特産のブランデーをくわえることもあります。
Merveille とはフランス語で「驚異、素晴らしいもの」という意味があります。
マルディグラに食べるためにカーニヴァル中に準備をしていました。
オレイエット Oreillette
旧ランドック地方の揚げ菓子。ランドック地方とは西南フランスのオクシタニー地域圏 Occitanie にあたる。生地は薄くてパリパリタイプのものが主で、カーニヴァル期間中に食べられます。
オレイエットは形が耳に似ていることから「耳」を意味する Oreille に由来している。モンプリエではオレンジやレモンの皮をくわえ、ラム酒で香りをつけることがあります。
ブニョン Beugnon
サントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏 Centre-Val de Loire で主に見られる揚げ菓子。小さい球の形をしていて、くるみ油で揚げるのが特徴。
ボトゥロ Bottreau
ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏 Pays de la Loire で見られる揚げ菓子。昔、この地方はアンジュ Anjou 地方と呼ばれていました。厚さ2cmほどの長方形やひし形をして、粉糖を振ります。四旬節という節食期の中日に食べていました。
ブーニェット Bougnette
旧オヴェルニュ地方でみられる揚げ菓子。オヴェルニュ地方とは現在のオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏 Auvergne-Rhône-Alpes にあたる地域。
ベニエやビューニュに発音が似ていることから、この地方に来て方言が混ざったと思われる。粉と牛乳をあわせた生地を油で揚げて蜂蜜をかけて食べる。
ビュニェット Bunyètes/Bunyettes
旧ランドック地方でみられる揚げ菓子。ランドック地方とは現在のオクシタニー地域圏 Occitanie にあたる地域のこと。ビューニュと同じもので、この地方に入り呼びかたが変わったものと考えられる。
オレンジ水やレモンの皮をくわえることもある。
Cambos d’ouilles カンボ・ドゥイユ
ペリゴール地方で見られる揚げ菓子のこと。ペリゴール地方とはヌーヴェル=アキテーヌ地域圏 Nouvelle-Aquitaine に当たる地域。
コニャックやラム酒をくわえ、厚さ4cm程度で、2×10cmの帯状など好きな形につくり、揚げたら粉糖を振っていただく。カンボ・ドゥイユとはこの地方で話されていたオック語で「雌羊の足」を意味する言葉。
シシ・フレジ Chichi fregi
エジプト豆粉でつくる南フランスのニースの揚げ菓子。エジプト豆を粉にしたものを使うのが特徴で、水や牛乳、砂糖をくわえて揚げます。
ニースの方言で、Chichi(エジプト豆)fregi(揚げた)で「エジプト豆を揚げたもの」という意味です。
クレーム・フリット Crème frite
中世からある揚げ物のひとつ。クレーム・フリットとは「揚げたクリーム」という意味。クレーム・パティシエールのようなクリームを揚げ、その名の通りクリーム状の揚げ菓子です。
クレーム・フリッとは悪魔のように人を驚かせる料理やお菓子につかう表現の “小さな悪魔 Diablotin” とも呼ばれていました。揚げてとろりとしたクリームが中から出てくることで驚かせていたからかもしれません。
クロキニョール Croquignole
旧ポワトゥー地方の薄くてぱりっとした揚げ菓子のこと。ポワトゥー地方とは西フランスのヌーヴェル=アキテーヌ地域圏 Nouvelle-Aquitaine にあたる。
「パリパリ音がする」という意味の Croquer から派生した言葉。四旬節中の復活祭前の日曜日である枝の主日にさまざまな色を付けて作り、子どもたちに与える習慣があった。
クリュチャード Cruchade
南西フランスの揚げ菓子で、塩味のものもある。とうもろこし粉をつかうのが特徴で、とうもろこし粉でつくった団子を伸ばして揚げたもの。ドイツ語で「硬い皮」を意味する Kruste がオック語になったのが語源とされています。
フリテレ Fritelle
コルシカ島の揚げ菓子のことで、9種類の香草を揚げ衣に混ぜた揚げ、小麦粉のかわりに栗粉をつかうのが特徴。栗粉とフェンネルと砂糖を混ぜて甘い揚げ菓子を作る。一般的な「揚げ物」を意味する Friture が語源となっており、訛ってこの名がついたと考えられる。
フリヴォル Frivolles
フランス北東にあるシャンパーニュ地方のひし形の揚げ菓子。
「揚げる」を意味する frite が語源となっており、この地方に入り訛ってつけられたと考えられる。ほかにもファリヴォル Farivolles, フィヴロル Fiverolles, 「ろばのうんこ」という意味のクロート・ダーヌ Crottes d’âne とも呼ばれているとか。茶色くてころころとした揚げ菓子だったのでしょう。
グニーユ Guenille
オヴェルニュ地方の揚げ菓子。グニーユとは「つまらないもの」という意味。5ミリ程度に薄く伸ばし、10×3cmの長方形に切って揚げ、砂糖をまぶす。四旬節の時期に主に食べられていました。
パンザロティ Panzarotti
コルシカ島のでみられる揚げ菓子。
ルーセット Roussette
揚げ菓子のこと。
トゥルティソ Tourtisseaux
ポワトゥー地方で見られるパイ生地を揚げたお菓子。ポワトゥー地方とは西フランスのヌーヴェル=アキテーヌ地域圏 Nouvelle-Aquitaine にあたる。節食中の四旬節に食べられていました。