タルトタタン誕生の物語
りんごのタルトタタンは19世紀に誕生しました。
この誕生物語はとても有名です。
ロワール・エ・シェル Loir-et-Cher県のラモット・ボヴロン Lamotte-Beuvron にある家族経営のホテル『タタン』で作られていました。現在もそのホテルは営業しています。
タタンホテルの場所
そこでふたりの姉妹がレストランで働いていました。
1838年に生まれたお姉さんステファニーStéphanieと、1847年に生まれた妹キャロリンCarolineです。ふたりともたいへんな働き者で、料理もとても上手だったそうです。
ある日、料理を担当していた姉のステファニーはいつものようにりんごのタルトを準備していました。
ただ、その日はとても急がしく、彼女は型に生地を敷かずにりんごだけを窯で焼いてしまいました。
作る手順を間違えたことに気づいた彼女は、あわてて生地をりんごの上にかぶせました。
失敗したと思ったものの窯から出して、それをひっくり返してみると、キャラメルの香ばしい香りのする食べものになっていました。
砂糖とバターのソースがりんごにしっかり染み込んでいて、とてもおいしいお菓子になっていました。お客さんに提供すると、美味しいと評判を呼んでいました。
それ以降、このホテルではりんごをひっくり返したタルトが作られるようになり、その美味しさが広まっていきました。
そのお菓子はタタン姉妹の名前をとって、タルトタタンという名前をつけましたとさ。
違和感…
というのが、タルトタタンが生まれた有名な由来です。
でも、ちょっと違和感がありませんか?
料理に慣れている人が、タルトの生地を敷き忘れるというミスをおこすのでしょうか。
料理上手なステファニーなら、砂糖を焼くとキャラメリゼされるっていうことは知らなかったのか。
料理上手な人が万が一の確率で失敗したお菓子が偶然にもおいしくできた…。
ほんとうにステファニーのうっかりミスで生まれたの?
新しい誕生説
この説があやしい…と思っている人はいるようで、じつは新しい説もあるんです。
19世紀後半、コルノンスキー Cornonsky という美食ジャーナリストがいました。彼は「美食王子」って呼ばれていました。
彼はフランスの美食に関するガイドを作るために、フランス各地のレストランをめぐっていました。
ある日、評判を聞いていたタタン姉妹のホテルを訪れました。
ホテルの名物料理だった逆さまのりんごタルトを食べた彼は、そのおいしさに感動しました。
彼はそのりんごタルトを紹介したいと考えたけれど、りんごと生地が逆さまというだけではあまりインパクトがない。りんごのタルトはこの当時では素朴な家庭のお菓子だったので、なにか物語がほしいと考えました。
パリの高級レストランであるマキシムで食事中、彼は想像話を思いつきました。
おっちょこちょいの女性がうっかりミスで偶然おいしいタルトができたという話を。
料理上手のシェフが考案したりんごタルトというよりもおもしろい話になると思ったから。
ということで、この話とともにタルトタタンはフランス全土に広まっていきました。
これは作家であるマグロンヌ・トゥサン・サマ Maguelonne Toussaint-Samat による説ですが、自然で説得力のある話です。
この説により、姉のステファニーがおっちょこちょいではなかったと名誉が回復されました。