フランス大統領選挙の第1回目の投票(Premier tour)まで2週間を切りました。フランスのテレビやラジオ、新聞などでは大統領選で持ち切りです。
今回は、フランス大統領選挙の候補者の今までの動向をまとめてみました。
フランス大統領候補が決まるまでの予備選については「2017年フランス大統領選挙の仕組みを簡単に説明」をご覧ください。
2017年フランス大統領選候補者
2017年のフランス大統領選の候補者は全員で11名です。下記の5名は以前よりメディアで報道されてたし支持率も高いため、主要な候補者と言われています。
- エマニュエル・マクロン Emmanuel Macron
- マリーヌ・ルペン Marine Le Pen
- ジャン=リュック・メランション Jean-Luc Mélenchon
- フランソワ・フィヨン François Fillon
- ブノワ・アモン Benoît Hamon
以下の5名はプチ候補者 Petits candidats と自分たちで自虐的に言っています。でも、大統領の候補者になるためには市町村長などからの500人の推薦が必要なので、プチと言えども支持はあります。各地で集会を開くとアイドル並みに支持者を集めています。
- ニコラ・デュポン=エニャン Nicolas Dupont-Aignan
- ナタリー・アルトー Nathalie Arthaud
- ジャック・シュミナド Jacques Cheminade
- フィリップ・プトゥ Philippe Poutou
- ジャン・ラサール Jean Lassalle
- フランソワ・アスリノー François Asselineau
各候補者のプロフィールと公約、選挙戦をまとめました。選挙戦についてはわたしの意見が入っています。
エマニュエル・マクロン Emmanuel Macron
フランス北部のアミアン出身でフランス国立行政学院を卒業、会計検査官として働いた後、投資銀行に転身し副社長にまで昇進しました。2014年オランド政権で経済大臣を務め、2015年には経済対策として、長距離バス路線の自由化や店舗の日曜などの営業時間の拡大などといった大規模な規制緩和を行いました、この法律は「マクロン法」とも呼ばれました。
2016年4月、無所属で右派でも左派でもない中道の「En marche ! (進め!)」という政治運動を立ち上げ、その後、経済大臣を辞任し大統領選に立候補しました。
公約
主には「閉塞感をなくし、弱者を守る社会を目指す」と訴えています。
- 政党:右派でも左派でもない中道のグループ、En marche ! アン・マルシュ
- 経済・雇用:週35時間労働制を維持。公務員を最大12万人削減し、法人税を軽減して投資奨励し経済成長を目指す。
- 社会保障制度・高齢者介護・福祉:年金制度、社会保障制度の一本化。歯科・眼鏡など高額医療費全額払戻し。
- EU:EUの枠組みは堅持。シェンゲン協定を維持するが、教会の警備は強化。通貨ユーロの維持。
- 難民・移民:難民の亡命申請審査期間を6ヵ月に。
- 原子力:原発を50%に削減。持続可能エネルギー開発。
もし、大統領になったら…
このままの高い支持率が続き、マクロン氏がフランス大統領になったら、ひとつ初めてなことがあります。
それはフランスで最年少の大統領が誕生すること。現在39歳(誕生日は12月)ですので、30代の若い大統領となります。保守的な国であるフランスが若い大統領を選ぶかどうかが見所です。
もうひとつ注目なことはファーストレディ(フランス語では Première dame)が彼よりも24歳年上の奥様になるっていうこと。奥様であるブリジットさんは現在64歳。すごくあか抜けたきれいな方ですが、お母さんと間違えないように〜。
ふたりが出会った頃、ブリジットさんは彼の高校時代の哲学の先生で、結婚し3人のお子さんのいるお母さんだったそうです。ふたりの交際は周囲の家族だけでなく、友人、同僚、さらには町のカトリック教会や名士までも反対されたんだそうです。そんな猛反対の嵐の中、10年間愛を育み2007年に結婚しました。
第1回投票まで2週間を切った先週くらいに、「マクロン氏でアメリカとロシアと渡り合えるか?」といったマクロン氏の経験不足を問題にする討論もなされるようになりました。いまさら?って感じもするけど。
たしかに、銀行の副社長になり、若くして経済大臣にもなった。けど、どちらも数年しか経験していない。一方、15年以上大国ロシアの長であるプーチン大統領と40年以上会社を経営し世界でもトップクラスの経営者であるトランプ大統領になめられそうな気はします。討論を見てても質問者の発言にかぶせるように意見してることが多く、小さい犬がキャンキャン吠えてるみたいに見える。
4月4日の候補者11人全員での討論会以降、支持率が微減しています。
マリーヌ・ルペン Marine Le Pen
パリ近郊の町ヌイイシュルセーヌ出身。Front National 国民戦線の創設者で党首だったジャン・マリー・ルペン氏の三女です。その後、弁護士となりましたが、2004年からヨーロッパ議会の議員を務めました。父親の「極右」というイメージの悪さを払拭するために、過激な発言を繰り返してきた父親を党から追放し、2011年に党首に就任しました。前回の2012年の大統領選に出馬しましたが、決選投票に進むことはできませんでした。
公約
フランスの「自由・安全・繁栄」を主とし、フランス国民の利益を優先するとする憲法改正を行うと主張しています。経済のグローバル化やヨーロッパの統合によって不満を感じていたり、テロや移民に対して不安を感じている国民から高い支持を得ています。
- 政党:Front national フロン・ナショナル(FN) 国民戦線党
- スローガン:Au nom du peuple 国民の名のもとに
- 経済・雇用:週35時間労働維持。外国人雇用者に追加課税、輸入品に3%課税。主に保護主義的な政策。
- 社会保障制度、高齢者介護・福祉:年金受給60歳から。外国人の社会保障を制限。
- EU:EUとの関係の見直し。EUを離脱するかの国民投票、通貨フランの復活。
- 難民・移民:移民の受入れを制限、国籍取得条件を厳しく。
- 原子力:原発維持、風力発電廃止。
テロ対策のため、警察官を1万5千人、軍隊を5万人増員しするとしています。
もし、大統領になったら…
フランスに住んでいる外国人の身分としては厳しめな公約だと言えます。企業で働くことも困難になり、社会保障も制限されたりとフランスで生活するのが難しくなるのかな。そもそも移民の受入れを制限すると訴えているので、乗じて留学生やそのほかのビザでの滞在も厳しくなるんだろうなぁ。大統領によってビザの発給が厳しくなることはあることで、実際サルコジ以降だんだん厳しくなっていると言われています。
もし、彼女がフランス大統領になったら初めてなことが2つあります。
まず、大統領の呼びかた(発音)が変わります。
「フランス大統領」は今までは男性しか大統領になっていないため、
Le Président de la République française ル・プレジダン・ド・ラ・レピュブリック・フランセーズ ですが、
もし彼女が大統領になったら、
La Présidente de la République française ラ・プレジダント・ド・ラ・レピュブリック・フランセーズ と呼びます。
女性なので「大統領」の部分が女性形に変わります。フランスでは初めての女性大統領となるため、フランス人も呼びかたを最初戸惑うかもと言っています。
そして、もうひとつ、ファーストレディではなくプルミエムッシュー???Premier Monsieur が誕生するかもなんです。フランス人も初めて過ぎて、何と呼ぶのかが分からないんだそうです。
ル・ペン氏は3人の子どもの母親ですが、現在のパートナーは同じ政党の副党首でヨーロッパ議会の議員でもあるルイ・アリオ氏です。ただ、このふたりは結婚はしていないので、正式なファーストムッシュになるかどうかは分かりません。でも、彼はもし彼女が大統領になったら、議員の職は辞してもかまわないと言っています。
ジャン=リュック・メランション Jean-Luc Mélenchon
モロッコ出身、家族でフランスに移住してきた移民です。教職や記者を経て、上院議員となり、2000年から職業教育相を務めた経歴もありますが、2008年社会党を離脱し、Parti de Gauche 急進左派の政党を立ち上げます。前回2012年の大統領選に出馬し、11%の支持を獲得しています。演説や討論といったプレゼンテーションに定評があります。
公約
- 政党:Parti de Gauche(PG)急進左派
- スローガン:La France insoumise 不服従のフランス
- 経済・雇用:総額30兆円を超す景気刺激策。最低賃金の引上げ。週32時間労働制へ。
- 社会保障制度、高齢者介護・福祉:満額年金を60歳から、生活保護を貧困線(840€)以上に。
- EU:EUとの関係を見直し、離脱も検討。、NATO脱退④難民受入措置強化、不法移民の正規化。
- 原子力:環境保護を重視し、原発廃止、2050年までに全て再生可能エネルギーで補う。
現在の第5共和制では大統領に権限を大きく認めすぎているとし、憲法改正で第6共和制への移行を押し進めています。
当初は5名の主要な大統領候補の中では支持率も低かったのですが、先日4月4日に行われた11人の候補者全員での討論会での内容やプレゼンテーションが高く評価されたため、第1回目投票日まで20日を切った時点で支持率がぐいぐいと伸びてきています。今では3位だったフィヨン氏に追いつこうかという格好になっており、主要候補者が全員でメランション氏を攻撃している状態となっています。
ル・ペン氏はちょっと過激だし、マクロン氏は経験不足、フィヨン氏は絶対にあり得ないってなったら、経験もありプレゼンテーションも上手はメランション氏がいいんじゃない?っていう動きになってきているようです。
フランソワ・フィヨン François Fillon
フランス中部の町ルマン出身で、1981年に27歳で下院議員に当選しました。労働大臣や教育大臣など4回の閣僚経験を経て、2007年から5年間サルコジ大統領の元で首相を務めました。昨年11月に行われた右派の大統領候補を決める予備選挙では、有力と見られていたアラン・ジュペ氏とサルコジ氏をやぶり勝利しました。そのころ「最も大統領に近い男」と言われていました。
公約
雇用を拡大し経済を立て直す経済対策を積極的に行い、テロ対策にも強化すると訴えています。
- 政党:Les Républicains(LR)共和党
- スローガン:Une volonté pour la France フランスのための意志
- 経済・雇用:週労働35時間制廃止。公務員を50万人削減し公共支出を削減。5年後には失業率を10%→7%に下げる。
- 社会保障制度・高齢者介護・福祉:満額年金65歳から。
- EU:ドイツとともに強いヨーロッパを目指し、アメリカには嫌悪感を示す。ロシアとの関係改善には積極的。
- 難民・移民:移民受入数を制限。移民受入れの審査期間を短縮し、認められなければ国外退去。
- 原子力:原発維持。
テロ対策として警察官を増員し、テロ活動にかかわった人物は国外追放。未成年者の刑罰対象年齢を16歳に引き下げる。(現在は18歳)また、同姓婚には厳しい見方をしている。
1月に左派の代表が決まった直後にペネロップ・ゲートと呼ばれる疑惑がすっぱ抜かれて、それ以降支持率は下降傾向にあります。ペネロップ・ゲートとは彼が議員時代に妻であるペネロップさんや子どもが勤務実態がないのにもかかわらず、総額1億円を超える給与を不正に受け取っていたとする疑惑で、3月には司法当局により訴追されました。
誠実で清廉潔白なイメージをもたれていた彼には大きなダメージで、それ以降も高級スーツ(1着100万円以上!)を企業家に買ってもらってたといったスキャンダルが報道されたり、エッフェル塔横で大規模な決起集会を行ったら大雨が降るし、最近では反対者から小麦粉をぶっかけられたりと踏んだり蹴ったりな選挙活動です。
国民はせっせと働いているのに、1億以上不正に受け取っていて、お城みたいに立派な邸宅に住んで、100万円以上のスーツを着ているってなるとなかなか支持はされませんよね。
当然ながら支持率は上昇する兆しはみられず、メランション氏に追い抜かれるかもという状況です。
ブノワ・アモン Benoît Hamon
ブルターニュ出身で、ヨーロッパ議会議員を経て、現在はパリ近郊イブリーヌ県選出の下院議員です。学生時代に社会党に入党しました。2014年オランド政権下で教育大臣を務めましたが、当時の首相であったヴァルス氏と対立し、わずか4ヶ月で辞任。今年1月の左派党内での予備選挙ではそのヴァルス前首相をやぶり、左党の統一候補に選ばれました。
公約
積極的な財政対策を訴えています。
- 政党:Parti socialiste(PS)社会党
- スローガン:Faire battre le coeur de la France フランスの心を躍動させる
- 経済・雇用:公共事業の50%は中小企業に割当、国外移転企業には優遇措置の払戻し、ロボットを導入した企業に税金を課す。子どもや高齢者向けのサービスに対し50万人の雇用を増やす、公務員も増員。
- 社会保障制度・高齢者介護・福祉:当初全ての国民にベーシックインカムを導入するとしていたが、批判を受け、学生や最低賃金の労働者へ所得保障を行う
- EU:EU条約見直し。
- 難民・移民:アフリカに経済援助。
- 原子力:2025年ディーゼル廃止。2025年原発50%減らし、50年には廃止。
そのほか、大麻合法化に賛成しています。
左派の代表が決まった直後にフィヨン氏の疑惑が報道されたため、ニュースではフィヨン氏のニュースばかりでアモン氏はあまり報道されなかったというかわいそうな選挙戦の幕開けでした。でも、そもそも左派は現オランド大統領の支持率がむちゃくちゃ低かったものだから、乗じて社会党も支持されず。しかも、社会党内でも意見がバラバラで分裂状態で、党員全員が一致団結しておらず、マクロン氏を支持する党員も多くでています。あのヴァルス氏はマクロン氏への支持を表明しました。仲悪いですね。
ちなみに、わたしの住んでいるリヨンの市長(ジェラール・コロン氏)も社会党の上院議員ですがマクロン氏の支持を表明しています。
そんな状態な上にメディアでも目立てず、厳しい選挙選となっており、現在では主要候補者のなかで最下位で最終決戦からは外れたと言われています。
アモン氏とヴァルス氏の選挙の戦いは「2017年フランス大統領選挙の仕組みを簡単に説明」をご覧ください。
プチ候補者については割愛させていただきました。討論会での彼らの暴れっぷりや発言が楽しませてくれるんですけどね。討論会の間は大暴れで、みんなから笑いをかっさらい、和やかな雰囲気にさせています。
まだまだこれからが本番
以上、フランス大統領選の候補者がそろってからの動向をまとめました。
フランスは国民が直接大統領を選ぶことができます。フランスに住んでいると、本人の討論会での発言や内容、メディアの報道などで国民の気持ちが変わっていくのがよく伝わってきます。
外国人であるわたしは投票権はありませんので、ただ蚊帳の外で見ているだけですが、移民や外国人に関する公約もあるので目が離せません。
候補者全員の意見や公約は違っていますが、フランスという国を良くしたいという想いは同じです。どの候補者が大統領になってもフランスが住みやすい良い国になりますように。
おすすめ関連記事
この記事へのコメントはありません。