パンデピスとはフランス語で「スパイスのパン」という意味の甘いお菓子。このお菓子には砂糖は入っていなく甘みははちみつだけ、ということは砂糖ができる前から作られていたお菓子なんです。
パンデピスが昔から作られている町は、アルザス地方やドイツ、ハンガリーなどがあるのですが、今回はフランスのディジョン Dijon という町のパンデピスを紹介します。このパンデピスだけを求めてリヨンからディジョンへ旅してきました。
ディジョンといえば、マスタードとカシスリキュール、そしてこのパンデピスが有名な街です。
ディジョンにはもともとパンデピスが古くから作られている町のひとつなんです。
ディジョンのパンデピスは、パウンドケーキのようなケイク型のお菓子です。アルザス地方で見られるパンデピスはクッキー型になっています。共通点はスパイスを使ったお菓子ということで、作りかたやレシピはその町にそれぞれ特徴があります。
ディジョンにある老舗パテイィスリーのミュロ・エ・プチジャン Mulot et Petitjean がパンデピスでは有名なんです。
ディジョンのパンデピスの歴史
まずは、ディジョンにパンデピスが伝わった歴史から。
ブルゴーニュ公国にフィリップ3世という王様がいました。
安定した統治を行ったので善良公(le bon)って呼ばれているんです。1430年にジャンヌダルクを捕まえたのはこの人。
ちなみに、フィリップ3世の前後の公は、フィリップ2世が”le Hardi” 大胆で果敢な人で、ジャン1世が”sans peur” 怖いもの知らず、善良公の後のシャルルが”le Téméraire” 無鉄砲で軽率だったといわれています。フィリップ3世がかなり優秀で安定したという王様だったんです。
公国とは貴族が支配している国のこと。王にあたる人物を「公」って呼んでいます。なのでフィリップ3世も貴族です。
ブルゴーニュ公国はフランドル地方(ベルギーやオランダ)も支配していて、フランドル地方では毛織物の産地だったため、経済的に繁栄していました。
1452年、フランドル地方の都市クルトレー Courtrai(現ベルギー)への遠征中に、小麦粉と蜂蜜で作ったお菓子を献上されます。それを食べてみると、とても懐かしい味がしたんだそうです。
このお菓子は、彼の祖母のマグリット・ド・フランドルの大好物だったというもの。おばあちゃんの味でおいしかったんだろうね。
フィリップ3世はこのお菓子をとても喜び、それを作った菓子職人とそのお菓子をともなってブルゴーニュの首都ディジョンに戻りました。
お菓子やレシピではなく、菓子職人ごともって帰るっていうわがままができるのはさすが貴族の公です。
そこからディジョンではこのお菓子を作るようになったそうです。現在でもパティスリーではパンデピスを一年中作っている店が多いんです。
スパイスはとても高価なものでしたが、ブルゴーニュ公国は裕福な国だったため、スパイスも手に入れることができました。
もうひとつの説は、フィリップ3世の妻であるマグリオット王女から伝わったともいわれています。マルグリット王女は北フランスのフランドル地方の出身で、この地方でもスパイスを使ったお菓子が作られていたといわれています。
どちらの説でもフィリップ3世が気に入って、ディジョンに持ってきたということですね。
ミュロ・エ・プチジャン chez Mulot et Petitjean
昔からあるパンデピスを求めにディジョンに行ってきました。
フランスの真ん中よりやや東よりのブルゴーニュ地方にあるのがディジョンです。パリから南東の方向にTGVで2時間、リヨンからも2時間の位置にあります。
Mulot et Petitjean は1796年創業のかなりの老舗。フランス革命の真っ最中に開業しています。
創始者はBarnabé Boittier バルナベ・ボイティエ氏で、当初からパンデピスを作っていたんだそうです。
その後、息子の Mulot ミュロ氏と義理の息子の Petitjean プチジャン氏が経営者となって今のお店の名前となります。フランスのお店の名前は、シェフの名前か地区名のものが多いです。単純だけど分かりやすいですね。
このお店はお菓子を売っているんだけど、パティスリーっていうカテゴリーではないようです。アントルメ系もないし。コンフィズリー(砂糖菓子)を置いているのでコンフィズリーなのかなと思うけど、パンデピスはコンフィズリーではないのでコンフィズリーではない。
ホームページによると「パンデピス屋さん」のようです。パティスリーでもコンフィズリーでもなくパンデピス屋さん。
店内に入るとスパイスと甘い香りがしています。そして、お店いっぱいにパンデピスが並んでいます。圧巻です。
大きさはさまざまで、切り口の様子から大きな型で焼いたパンデピスを適当な大きさに切っているようです。
いろんなフレーバーのパンデピスがあるので、好みの大きさで買えるのがうれしい。全体的には大きめです。
見た目は日本のカステラのようです。上下の層が色が濃くなっている。
カステラのようにふわふわを想像しそうですが、油分のほとんど入っていない生地なのでパサパサです。スパイスの利いたお菓子なのでそのほうが食べやすいかもと思います。紅茶やコーヒーに浸しながら食べるんですよね。スパイスはやっぱり強めですが、甘みも加わっているのでおいしい。
フランスではそのままおやつとして食べますが、フォアグラと一緒に前菜で食べることもあるそうです。贅沢だなぁ。
こちらはディジョンのほかのパティスリーで買ったパンデピス。ディジョンのパティスリーにはパンデピスが必ず並んでいます。
パティスリーなので生地はパウンドケーキのようにやわらかくって、中には柔らかめのチョコレートが入っています。アレンジしているパンデピスもなかなかのおいしさです。スパイスはあんまり強くなかったです。
やっぱり本場で食べるとおいしい♪
店舗情報
Mulot et Petitjean / ミュロ・エ・プチジャン
- 住所: 16 Rue de la Liberté 21000 Dijon
- H P :Mulot et Petitjean(ホームページではパンデピスができるまでや歴史が紹介されています)
ぜひディジョンを訪れたら行ってほしいパンデピス屋さんです。お菓子好きさんにはぜひ!
- パンデピスの作りかた:日本人の口に合うスパイス控えめなパンデピスの作りかた
- リアルお菓子の家に行ってきた:フランス・アルザスにあるパンデピス博物館
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