サヴァランの歴史と由来
1730年にストレーによって考案されたババはすでにリキュール入りシロップに漬けられていました。
現在のババも当時と同様にラム酒入りのシロップに漬け、泡立てた生クリームを添えられています。
ですので、現在の形のババは18世紀に作られたものとされていますが、もうひとつ別の説があります。それはババに似たお菓子サヴァランの話に関わりがあります。
ある説によると、19世紀半ばまでババはリキュール入りシロップをかけないお菓子ではないとされていました。
ババとサラヴァンの違い
1878年の料理人 ユルバン・デュボア氏 Urbain Dubois による著書( Nouvelle cuisine bourgeoise pour la ville et la campagne )にはババとサラヴァンの違いが書かれています。
ババは小麦粉、多めのバター、卵、少なめのバターがベースの生地を酵母を使ってふくらませて、中にはレーズン、ギリシアのコリントス産とトルコのイズミール産のレーズンとレモンコンフィを混ぜて作るとされています。
サヴァランはババとベースと酵母を使う点は同じですが、クリームとリキュールを少し足し、さらに力強く捏ねて寝かせ、コニャックやラム酒やキルシュを混ぜたシロップをかけて食べるとしています。
さらに、1880年のエミリー・デュモン氏 Émile Dumont の著書(Le parfait Pâtisserie)にもババとサヴァランの違いについて書かれてあります。
ババの生地はマラガ産とコリントス産のレーズン、レモンコンフィ、少しのラム酒、ポルトガルのマデイラワインかスペインのマラガワインを使い、シャルロット型に入れて焼き上げる。
サラヴァンは果物などをいれない生地を王冠の型に入れて焼き、その後シロップに漬けます。
当時、生地に果物を混ぜて焼いただけのものがババ、その生地にリキュール入りのシロップをかけていたのがサヴァランと区別されていました。つまり、19世紀の半ばまでリキュール入りのシロップに漬けたババというお菓子は存在していなかったということです。
シロップに漬けたババをストレーが18世紀に考案したという説に矛盾が生じてきます。
サヴァランの由来
パリで流行していたババをもとに1844年にパティシエであるジュリアン兄弟がサヴァランというお菓子を作りました。
それはババと同じ生地を用い、バラ水やアブサン酒(l’absinthe 薬草系のリキュール)やキルシュの入ったシロップに漬けてつくりました。
ピエール・ラカム Pierre Lacam によると、ジュリアン兄弟の末っ子オギューストがボルドーへの旅行中、刷毛でシロップを塗ったアントルメをみかけ、そのアイデアをもとに、シロップの中にお菓子を漬けるというレシピを作り出したと述べています。
そのお菓子の名前は18世紀末から19世紀初頭で食通として有名なブリア・サラヴァン Jean Anthelme Brillat-Savarin へのオマージュとして名付けられました。ジュリアン兄弟自身もそう語っています。
前述の1880年のエミリー・デュモン氏 Émile Dumont の著書(Le parfait Pâtisserie)にも、シロップに漬けるというアイデアはジュリアン兄弟が考案したものと言っています。
つまり、スタニスラス王の時代にはシロップ漬けのババというお菓子は存在しておらず、そのババをもとにシロップ漬けにしたサヴァランというお菓子を考案したという説です。
どちらにせよ、今ではババもサヴァランもシロップ漬けにされたアルコールの効いたお菓子です。
現在では、ババもサヴァランもラム酒入りのシロップに漬けられています。ババは円柱型で焼き、生クリームを添えており、サヴァランは丸く焼いた生地のくぼみに生クリームやカスタードクリーム、生のフルーツなどを飾っています。
リヨンのブラッスリーではババをデザートとして提供されることが多く、食事の後でも平気で食べれるくらいおいしいお菓子です。また、シロップとババ生地を漬込んだ瓶詰めも販売されています。
サヴァランはフルーツを華やかに飾ってパティスリーに置かれています。